トップ  >  研修生のはなし  >  【ブータン】メナクシ・ライさんのはなし 「幸せの国」をめざして

2014年の国際研修に、ブータンから26年ぶり2人目となる研修生を迎えました。

家庭内暴力(以下DV)の問題に取り組むメナクシ・ライさんです。 

「日本で『ブータンから来ました』と自己紹介をすると、

『“幸せの国”ですね』と言われます。

 

でも実は、DVのほかにも生活習慣病の増加、都市と地方の格差の広がり、

若者の就職難など、たくさんの社会課題を抱えています。

ブータンは“すべての国民が幸せな国を目指して頑張っている国”なのです」。

 

ブータンの概要

ブータンはヒマラヤ山脈の東端にあり、中国とインド、2つの大国に挟まれた国です。

現在の人口は約75万人、面積は九州ほどで7割以上が森林に覆われています。

仏教が暮らしに深く根ざし、豊かな文化と独自の価値観を育みました。

人びとは農業や牧畜業を営んで暮らしてきました。1970年代から徐々に国を開き、

諸外国の協力を得ながら開発を進めています。

2008年に国王親政から民主制(立憲君主制)に移行しました。

 

RENEWの活動

メナクシさんはNGO・RENEWの職員です。

RENEWの正式名は、Respect, Educate, Nurture and Empower Women。

女性の尊重・教育・育成・エンパワーという意味です。2004年に第4代国王の妃の一人が立ち上げました。

この王妃は1999年に国連人口調査局の親善大使となりました。

HIV/エイズや性と生殖に関する健康の啓発のために国内を回りました。

その中で多くの女性が問題を抱えている現実を知り、女性の権利擁護、とりわけDVの問題に取り組み始めたのです。

RENEWはDV被害者のための24時間電話相談、避難施設、専門家によるカウンセリング、

自立のための職業訓練、低金利融資、奨学金給付などを行っています。

 

折々に大規模な集会を開き、王妃がスピーチをしたり、国民の声をきいたりします。

 

しかし、活動の屋台骨となっているのはボランティアによる地域の見守りシステムです。

ボランティアを育成し、ネットワークをつくることで、DVの予防や早期発見を可能にしています。

ブータンでは母系制をとる地域が多くあります。しかし、必ずしも統制権や決定権が女性にあるわけではありません。

女性は寺院の深部に入ることが許されないなど、むしろ女性の立場は男性よりも低いものとされてきました。

このような社会で男女平等を訴えていくには、大変な覚悟と勇気がいります。

RENEWが育成した地域ボランティアが、各地域で女性の権利に関する啓発活動や、地域の見守りなどを行っています。

 

「王妃の後見がなければ、RENEWは10年という短期間のうちに活動を全国に広げることができなかったでしょう」

と、メナクシさんは言いました。

ブータン保健省が2012年に行った調査によると、68%の女性がDVを受けたことがあると回答しています。

2014年にはブータンでDV防止法が制定されました。

今後はボランティアの活力を保つことや、DVの問題に直接かかわりのない人たちの協力を得ていくことが必要です。

しかしNGOの歴史が浅いブータン国内には、RENEW以上の経験をもつ例がありません。

メナクシさんは、アジア各国のNGOワーカーが集う国際研修でそのヒントを得ようとやって来ました。

 

メナクシさんの学び

しかし、メナクシさんは国際研修でこれらの課題に対する画期的な方策などないこと、

停滞を感じたときこそ地道に活動を続けることが大切だと学びました。

そしてRENEWの活動を強化するアイデアを幾つも得ました。ひとつの例は伝統療法の活用です。

フィリピンのティナさんは、薬草や伝統療法の知識と技術をもつ保健ボランティアを育てています。

そこからRENEWのボランティアの研修プログラムに、DV被害者の心身をケアするためのマッサージ講習を入れること、

そのためにブータン国立伝統治療院と連携することを考えつきました。 メナクシさんが予期しなかった学びがあります。

それはGNHです。そう聞いて「おや?」と思うかもしれません。

実はメナクシさん、もともとGNHについて詳細に知っていたわけではありません。

来日前にAHIから「GNHについて発表ができるように準備をしてきてください」と言われ、

GNH委員会を訪れて講義を受けたうえに、99ページにおよぶ資料をもらって帰り、猛勉強したのです。

「DVは取り扱いが難しい問題です。だからといって見すごすことはできません。

全ての国民が幸せな国を目指すからには、どんな問題も一つひとつ解決していかなくてはいけません」。

メナクシさんはこうGNHの発表を締めくくりました。

国際研修で母国や自身の活動について見返す機会があったからこそ、

そして他の研修生とともに様ざまな方向から開発のあり方を考えたからこそ、

自分の活動の意義を新たな視点から捉え直すことができました。

「これからはボランティアの人たちにも、GNHと自分たちの活動の関係を考えてもらうようにする」とも言いました。

仲間たちにも自分と同じように気付きを得て、活動の意義をあらためて感じてほしい。そしてモチベーションを高めてほしいという願いです。

 

メナクシさんから得たこと

メナクシさんが国際研修にもたらしたものの一つは、やはりGNHに関することです。

メナクシさんが粉骨砕身した甲斐あって、多くの研修生が自分たちが目指す開発の方向性や、

豊かさとは何かを考え直すことができたと言っています。

2つ目はプレゼンテーション・スキル。情緒豊かな口調と効果的なボディ・ランゲージで、聴き手を上手にひきつけます。

聴き手の反応によって、自在に話を掘り下げたり広げたりします。

英語が堪能すぎて早口になる点を除いて、私たちAHI職員にとっても手本となるものでした。

3つめはリーダシップ。国際研修は知識や技術だけでなく、リーダーにふさわしい態度や考え方を身につけることを目的としています。

今年、アジア6カ国から集まった12名の研修参加者の中でもメナクシさんはとりわけ優れたリーダーと言ってよいでしょう。

率先して様ざまな役割を担ってくれただけではありません。他の研修参加者が担当するセッションの準備の手伝いから、

誰かが置き忘れた食器の片付けまで、さも当たり前という感じで行っていました。

国際研修では、リーダーに必要な資質や条件を考えるセッションを行います。

しかしあれこれ考えるまでもなく、時には伴走者として、時には黒子として、その状況下で必要とされることを自律的に行える人、

それがリーダーなのだとメナクシさんは普段から行動で示してくれました。

 

AHIの頼もしい仲間 メナクシさんは国際研修が終わった後、1週間滞在を延長して学校や地域で講演を行いました。

そこで次のように言いました。

「ブータンがどんなに頑張っても一国では“幸せの国”にはなれません。経済危機や気候変動などの影響は、国境を越えて来るからです。

ブータンが“幸せの国”になるためには、世界中の国同士が友人として助け合っていくことが必要です」。

 

分かち合い、支え合いをモットーとするAHIの頼もしい仲間をブータンに得ることができました。

アジアに広がるAHIのネットワークの一端をヒマラヤの谷間におろすことができたことを嬉しく思います。

そしてその枝葉がどこへ広がっていくのか、楽しみです。

アジアの健康 2015年2月号より

 

 

プリンタ用画面
前
【2015年国際研修】ビシュヌマニ・ネパール(ビシュヌマニ)さん :SSS
カテゴリートップ
研修生のはなし
次
【カンボジア】カンナロさんのはなし