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僕はジャベド、15才

ーパキスタン・ラホールジプシー村からー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、寄ってきな、見ていきな!

お猿さんのサーカスだよ!

 

さあて、ラジャ。お客さんにごあいさつだ。

おいおい、敬礼はないだろ、敬礼は。

兵隊さんじゃないんだから。

 

そうそう、『コ・ン・ニ・チ・ハ!』

ちゃんとできるじゃないか。

 

おおっ、今度は棒きれを持ち出したな。

こらこら、鉄砲かよ!

よしなって、危ないから!

 

あっ、撃たれちゃった!仰向けにバッタリ!

しょうがないな、ホントに!

 

さあて、お客さん、これからが本番だよ。

ラジャがこの輪を飛び抜けて、クルッと一回転してピタッ

と止まる!うまくいきましたらご喝采!

 

さあさ、お客さん。空き缶をまわすから、ケチケチ

しないで、お金を入れとくれ!

 

 

そうさ、僕は猿まわし。

名前はジャベド・アクラム。今年で15才になった。

いつも親父と兄貴と3人で猿まわしをして、一家の

暮らしを支えている。

 

一回で500ルピー、多いときは800ルピーぐらい

稼ぐんだ。

 

 

 

おふくろと妹たち3人は、毎日ラホールのにぎやかな

通りに出かける。

そこで一日中、物乞いをするんだ。

 

猿まわしと物乞いで一家8人が暮らしていくのは、

そりゃ大変さ。

 

(※ 欄外注:1ルピー=1.04円。コーラ330mlボトルが約35円。)

 

 

 


 

 

 

住んでいるのは、ラホール市内のラビ川の土手。

そこに粗末なテントを張って、一家8人が暮らしてる。

 

前はもっと田舎に住んでたんだけど、5年前にここに

移ってきた。

 

 

 

僕のテントの周りには、同じ猿まわしの仲間のテントが

あって、貧しいもの同士助け合って暮らしている。

僕らはみんな“ジプシー”の仲間なんだ。

 

ここのジプシーの暮らしは、そりゃひどいもんさ。

近くにでかいゴミ山があるし、ラビ川は生ゴミとか

有害なゴミで汚染されて、飲み水を手に入れるのだって

簡単じゃない。

 

水道も、まともなトイレもない不衛生な場所に

住んでるから、年寄りや子どもはよく病気にかかる。

でも病気になっても、貧しいジプシーの病気を

診てくれる医者なんていやしない。

 

僕らは猿まわしを仕事にしている「カランデル」と

いうグループだけど、他にも歌や踊りで稼ぐグループ

とか、占い専門のジプシーもいる。

でもみんな、住む家を持たずにテントに住み、貧しい

暮らしをしてるのさ。

 

 

 

 

僕も僕の家族もそうだけど、このラビ川土手の

「カランデル」の中には、文字の読み書きが出来る

人は1人もいやしない。

 

 

 

しょっちゅう住む場所を変えるジプシーには、学校

なんて行けるわけがない。

 

テント村のジプシーは、近くの町の人たちには

よっぽど気味の悪い集団に見えるらしい。

物が壊れたとか、家に泥棒が入ったりすると、

みんなジプシーのせいにされてしまうんだから、

やってられないよ。

 

特におふくろや妹たちは、大変だと思う。

物乞いをしていてボコボコに殴られたり、物を

投げつけられたりすることもある。

 

 

 

でも、悪いことばかりじゃない。

いつも家族と一緒にいて、仲間の家族と助け合って

暮らせるからさ。

朝晩の食事も、家族全員で食べるんだ。

 

おふくろの料理は最高だぜ!

 

 

 

ラビ川土手のテント村に、僕と同じくらいの年のツレが5人いる。

 

 

そのうち3人は、ゴミをあさって

お金に換えている。あとの2人は、路上で洗車して

お金をもらっている。

 

仕事が終わってヒマな時間ができると、いつも5

が集まって町の安い映画館に行ったり、トランプで

小銭をかけて遊んだり、マリファナなんかを混ぜた

タバコを吸ったりもしているんだ。

 

もっと年上の連中のまねをして、マリファナを鼻から

吸ったり、注射器でこうしたドラッグを打ったり…。

売春をしてる女の人とセックスする奴だっている。

 

どうせこの先夢も希望もないんだから、その日その日

が楽しけりゃ、それでいいのさ。

 

 

 

 

 

でも時々、本当にこれでいいのか、と思うこともある。

 

 

 

学校の傍を通りかかると、クリケットをする歓声や

楽しそうな笑い声が聞こえる。

 

重そうなカバンを抱えた子どもたちが、僕やツレの

姿を見つけると、汚いものでも見るような目つきで

逃げて行く。

 

学校かぁ…

勉強かぁ…

あの子たちは、僕の知らないことをいっぱい知って

るんだろうな。

 

 

せめて文字が読めて書けたらなぁ。

せめて妹たちに読み書きを教えてやれたら、物乞い

なんかしなくていいのに。

 

でも、オレはジプシーの「カランデル」、猿まわしが

仕事、一生猿まわしさ。

働かなくちゃ生きていけない。

 

 

 

 

半年ほど前のことだ。

僕は、「HIV・エイズ予防のための大道芸人の能力開発」

というものに行ったんだ。

 

やけに難しい名前だけど、ジプシーの僕たちに話が

ある、って言うんで、とりあえず行ってみたのさ。

 

 

まずビックリさせられたのは、大きなポスターの絵だ。

マリファナ!注射器!?コンドーム!?何だ、こりゃ?

オレたちにお説教する気か?

それから〈HIV-エイズ〉だと? 〈性感染症〉だぁ?

何のこっちゃ、それ?

 

それから、くわしい話を聞いて驚いた。

ドラッグを続けていたら、僕や僕のツレがいつエイズ

にかかってもおかしくない!

 

 

HIVに感染してエイズになってしまうと、何でも

ない細菌やカビでも命を失うことになりまねない。

なんてったって根本的な治療方がない、予防する

ワクチンもない。そして知らないうちに、感染者を

増やしてしまうんだ。

 

知らなかったよ。

誰もそんなこと教えてくれなかったよ…。

 

その時、僕の顔は真っ青だったに違いない。

 

 

  


 

 

 

エイズのことをもっともっと知らなきゃ!

仲間たちや、ラビ川のテント村の人たちに知らせなきゃ!

僕は本気でそう思った。

 

AAS(※)の人たちから《ピア・エデュケーター》(※3)

ならないかと声をかけられたとき、迷わず僕は

『喜んで』と答えたんだ。

自分で言うのもなんだけど、人前で話をすることは

猿まわしで鍛えているからね。

 

エイズ予防のキャンペーンでは、話す方も聞く方も

文字が読めないんだから、AASからもらったポスター

や、自分で描いた絵カードを使って話をするのさ。

 

 

ドラッグやセックスからエイズにかかる恐れがあること

カミソリの使いまわしでエイズ感染が広がってしまうこと、

そのものズバリの絵をみりゃ、誰だってすぐ分かってくれる

 

 

 

 

それから半年あまり、ずいぶんいろんなところで話をしたよ。

 

カランデルのテント村だけじゃなく、他のジプシーの

グループの所へも行ったんだ。

 

 


     (※2:AASAids Awareness Society エイズ予防協会、HIV-エイズの予防、母子保健の

          向上などを目的とするNGO)

     (※3:ピアエデュケータ― = 専門のトレーニングを受け、同世代の仲間(ピア)に働き

         かけて、正しい理解を導こうとする人)

   

 

 

思ったとおり、僕のツレやジプシーの若い連中には、

エイズの話はものすごくショックだったようだ。

みんながね、僕にHIV-エイズの予防の方法をもっと

いろいろ教えてくれと言うんだよ。

 

 

今では、ジプシーの若い仲間だけじゃなく村の村の

大人までが「エイズってどんな病気?」「どうやって

予防する?」「エイズになったらどうすりゃいい?」

と本気で僕に聞きに来るようになったんだ。

 

 

僕のツレも相変わらずドラッグから抜けられないで

いるし、僕も付き合いで麻薬入りのタバコを吸うこともある。

けど、ジプシーの人たちは、今では誰でもエイズの

恐ろしさを分かっている。

 

僕を頼りにしてくれる人がいるって―――

ちょっとこそばゆいけど、いいもんだね。

もっともっとジプシーの人たちがまともに暮らせる

ように、役に立てたらいいな。

 

それが、猿回しのジャベド・アクラムの夢さ。

 

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