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              ― モンゴル・フブスグル県より ―

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ツァータン ―を変えたトナカイ― 

 モンゴルと言えば、草原を走る馬や、ゲルとばれる家で生活する人たちを思い出すかもしれません。しかし、首都ウランバートルから700キロはなれたれた、ロシアとの国境近くのフブスグル県には、世界でもずらしいトナカイ遊牧民のツァータンの人たちが住んでいます。人口はわずか270人(34家族)ほどです。どくじの言語であるトゥバ語を話します。フブスグル湖の西に広がるタイガ(しんようじゅ林)にトナカイを遊牧し、季節ごとに住む場所を変えながら生活しています。ツァータンの人びとの生活は、草原のゆうぼく民とはだいぶいます。家は高い山の中にあり、ティーピーという先のとがった丸いテントでらしています。ツァータンの人たちは自分たちを「姿を変えたトナカイ」だと信じています。だから、トナカイのミルクを飲んだり、チーズを食べたり、生活のしゅだんとして使うだけでなく、トナカイを家族のようにとても大切に思っているのです。

 

 

ぼくたちは、モンゴルの北の端、フブスグル県の「ツァガンノール」にいる。

すぐ北はもうシベリア、真冬はマイナス40度、とっても寒いところさ。

 でもぼくたちは寒さなんか平気だよ。空気をたっぷりためこめる長い毛におおわれているからどんなにりつくような雨風に耐えられるし、水中でもうまく泳げるのさ。

この毛皮のおかげで、ツァータンの人たちも寒さを気にしないよ。

ぼくの枝角、上の方で広がっていて、かっこいいだろ?地面の雪を掘りおこすスコップにしているんだ。雪の下にはおいしいコケがいっぱい生えているからね。

 お母さんトナカイは冬の間コケをいっぱい食べて、赤ちゃんのため、

ツァータンの人たちのために、栄養たっぷりのミルクを作ってくれるんだ。

 

 

ツァータンの人たちは、トナカイからけ落ちた角を大切にしているよ。

ナイフの柄やスプーン、釣針や銛先をいつでも新しいものに作り変えることができるから。

ツァータンの人たちは、生きるために必要なほとんどのものをトナカイからもらっている。

 

 

ぼくたちは、ツァータンの人たちに守られている。

オオカミやヒグマなどの敵をおっぱらってくれる。

広大なタイガの中を、季節ごとに、 新鮮な牧草やコケのあるところへ連れて行ってくれる。

 

 

ツァータンの人たちは、自分たちのことを「姿を変えたトナカイ」と思っている。

ぼくたちトナカイとツァータンは、助け合って暮らしている家族なんだ。

さぁ、ぼくの家族、ジャングムに会いに行こう!

村の入り口には「オボー」があるよ。

積み上げた石の上に青いスカーフが巻きつけてある。

天の神様が降りてきて、みんなの安全を守ってくれるんだ。

「ティーピー」の家の中には、台所と松の木のベッドがあるぐらい。

余計なものは一切もたないのさ。

 

 

奥の「エーレン」は、神様をまつる所。近づきすぎたり、前を横切ったりしてはいけない。

ストーブを囲んで、食事をしたり、ミルク茶を飲みながら暖まるんだ。

火にゴミを捨てたりして、火の神様を怒らせてはいけないよ。

ツァータンには、このように守らなければいけない決まりがたくさんあるのさ。

 

ジャングムは、12才の女の子。

ぼくが生まれてから、ずっと世話をしてくれている。

 

トナカイは、生まれると2時間もしないうちに立って歩き始めるのだけれど、

その時からぼくにはもうジャングムという<お姉さん>がいた。

 

 

ジャングムには3人の妹と弟がいる。みんなぼくたちのことをとても可愛いがってくれるよ。

背中に乗って一緒に散歩に出かけたり、森の木にぶらさげたブランコで思いっきり遊ぶんだ。

 

牧草地でぼくたちトナカイの群れと一緒にいるとき、ジャングムは、

時々、小高いの丘てっぺんに登って、町のほうを眺めていることがある。

 

きっと、学校の友だちのことを思い出しているんだね。

 

 

今は夏休み。ジャングムはツァガンノールのこの村に戻っているけど、

普段は大きな町の学校に通っている。

村から80キロも離れているので、弟、妹たちと一緒に学校の寮に入っているんだ

 

 寮の生活はなかなか大変らしい。朝、先生の声で起こされてから、顔を洗い、近くの湖まで水をくみに行く。暖房用の(まき)を割り、ようやく朝ごはん。

食卓をきれいにふき、食事の後は食器を洗い、弟や妹の服を洗う。せんたく機なんてないから、とっても時間がかかる。

 

 でも、ジャングムは水汲みも洗濯も薪割りもとっても楽しいんだって。

湖の中を泳ぎまわる魚を見て、友だちとおしゃべりするのが大好きなんだよ。

 

 

 ある日、ジャングムは暗い顔をしていた。学校でとても嫌なことがあったらしい。

ジャングムはさみしい眼をして、ぼくに話してくれた。

 

 「あのね、私のお友達のお母さんの財布がまれたの。

そのお友達は、私がツァータンで貧乏だから、

『盗んだのはあなたでしょ!』って言ったの。すごく傷ついたわ。」

 

「でもね、たとえ貧しい暮らしをしていても自分がめだと思ったことなんて一度もないよ。弟や妹と一緒に遊んだり、生まれたばかりのトナカイの世話をしたりしていると、とっても幸せなの!」

 そういって、ジャングムはぼくのことをやさしくなでてくれたんだ。

ジャングムは、自分がツァータンであることに誇りを持っているのさ。

最近、世界中の国から、の大勢の観光客がやってくるようになった。ぼくたちトナカイと並んで写真を撮ったり、ティーピーに泊まって大喜びしているよ。

 そんな観光客を村のみんなは一生懸命もてなしているよ。

 

一方、モンゴルは政府は、ツァータンの人たちに町への定住をすすめているんだ。

トナカイの遊牧をあきらめて、教育を受けるために便利なところで

住みたいと考える若者も増えてきた。

 

10年前は44家族いたツァガンノールのツァータン人が、

今は34家族になってしまったんだ。

 

大自然の中で育ったトナカイは

ツァータンの人たちと一緒に町に連れてこられても、生きていくのが難しい。

 

 森と草原を追われたツァータンのトナカイたちは、今、絶滅の危機のにあるんだ。

 そんな中、ツァータンの人たちも、自分たちの村のすばらしさを伝えようと、

スタディーツアーを計画したりしてがんばっているよ。

 

ジャングムもいま、英語を勉強して、外国人の観光客と自分の言葉で話をしてみたいと思っているんだ。トナカイのこと、ツァータンのこと、

多くの人に知ってもらえるといいな。

 

ジャングムのは、歌手になること。歌を歌うと、幼いトナカイのことや

村の山々を思い出すんだって。いちばん好きな歌は、〈サムガリダイ〉。

ツァータンの言葉、トゥバ語の歌なんだよ。

 

ほら! ジャングムがいつものように丘のてっぺんで、

夕ひを見ながら歌っているよ。

トナカイびとの誇りを、 ツァータンの未来を・・・

  

 

 

  おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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